2005年、レイたち家族はシンガポールに住んでいました。そこでイギリス人の年配の男性のグループと出会ったのですが、彼らはたくさんのロードトリップを一緒にしてきた仲間で、その50回目の記念としてロンドンからシンガポールまで古いランドローバーでやって来ていました。
当時、そんな旅をした人は誰も聞いたことがなく、そのグループに出会ったすぐ後にはミャンマーが国境を閉じてしまったので、同じルートで旅をすることはその後誰にも不可能でした。
その出会いから10年後、レイはあのイギリス人のグループが使っていたのと同じ車種の中古のローバーを偶然見つけ、それをわずか300ドルで買いました。そしてその後すぐに、世界情勢が変わってミャンマーの国境が再び通れるようになりました。
それをきっかけとして、彼らはロンドンからシンガポールまでのロードトリップに出たのです。
子どもたちはロードトリップの間ホームスクールで勉強していたので、そのための教科書や本がたくさん必要でした。そのために車に乗せる荷物には余裕がなく、バックパッカーの旅行者のように、それぞれが自分のブランケットや最低限の着替えなどの入った荷物を持ち、テントや車中でブランケットにくるまって寝て、調理にはキャンプ用の道具を使っていました。
旅の間、車窓からの眺めが日々変わって、それぞれに違っている地域や国を見るのが楽しみでした。
でも、一番の楽しみはたくさんの人と出会う事でした。親切であたたかく彼らを迎え入れてくれる心の広い人たちにたくさん巡り会いました。
その中で彼らが最も感謝しているのは車の修理を手伝ってくれた人たちでした。彼らのランドローバーは作られてからもう62年も経っている古い物なのでよく故障し、そして古い車の為、パーツを見つけることも困難でした。
レイたちはFacebookでランドローバーに関するコミュニティに参加し、そこで修理を頼める人を紹介してもらったりしましたが、古い車を一生懸命直してくれた人たちに驚き、とても感謝しました。
旅の間のお金はどうしていたのかとよく聞かれますが、レイは自営業で広告やマーケティングの仕事をしているので、スケジュールを自分で調整することができました。
旅行の前に仕事を片付けたり、遅らせて旅の後に回したりして旅行の時間を確保したのです。
旅はおよそ9カ月かかり、危険な場所などは迂回して遠回りしなければならなかったので、走行距離は全部で16,000マイル以上にもなりました。
それまでもいくつもの国にまたがる旅行はしてきましたが、この旅が最も長く、そして今のところもっとも価値のある素晴らしい旅行でした。
レイたちは、子どもたちが小さいうちに多くの経験をさせてあげられたことはとても幸運なことだと思いましたし、3人の息子たちもそれぞれが良い思い出をつくることができました。
古く狭い車内で兄弟や両親とずっと一緒に過ごしていると、時にはとてもイライラして嫌な空気になったりもします。でも一日の終わりにその日の旅を振り返ると、そこにはストレスではなく、素晴らしい冒険の旅を大好きな家族と一緒にしてきたという満ち足りた気持ちがありました。
この旅の後、レイたちはOverland rally(オーバーランドラリー)というワークショップを主催するようになりました。
そこで彼らのような長距離のロードトリップに出るために必要なスキルを教えたり、気持ちの面で不安を感じている人をサポートしたりしているのです。旅に出たら何か悪い事件に巻き込まれるかもしれないと怖がる人は多いですし、そう思うのは当然のことです。
でも実際には、旅の途中で何かしら悪いことが起こるという確率はとても低いものなのです。
レイたちはワークショップを通して、ロードトリップに憧れる人たちを互いに結び付け、役に立つ知識を提供し、そして一緒に楽しもうと考えています。